や・く・そ・く する 僕はずっとここにいると

精いっぱいの愛を言葉にすることを 恐れず、怠らず。

石田衣良『北斗 ある殺人者の回心』を読んだ。

北斗 ある殺人者の回心 (集英社文庫) | 石田 衣良 |本 | 通販 | Amazon

 

息が詰まるような緊張感で、
一息に読了した。

読み終えたあとは、
ずっしりと重たい何かが心から離れなかった。

中山優馬が主演を務めるのでなければ、私はきっと手に取ることはなかったであろう類の小説。

表紙をめくるまでは、
ただ悲惨な虐待とそのせいで狂ってしまったおぞましい殺人者の話かと勝手に想像していた。

けれども、違った。
そんな単純明快な話ではなくて。
そんな現実とかけ離れた話ではなくて。
社会と人間の本質というものを
真っすぐに突き
読者に容赦なく投げかけてくる、
そんな一冊だった。

愛とは、
正義とは。
家族とは。
罪とは、
償うとは。
運命とはどういうものなのか。
虐待のもたらす本当の傷。
裁判というもの。
死刑制度について。
そして、
人とは
生きるとは
結局、何なのか。

一つひとつで一冊でいいくらいの
重たい重たいテーマが
常軌を逸した人生を送ってきた北斗という人物を通して描くことで
心に突きつけられ、
読み終えたあとは、何が正しいのかわからなくなった。
考えて、考えつづけた。

優馬くんは、これをどう解釈して、
自分の中に落とし込んで、
北斗を演じたのだろう。
ただただ、興味深いと思った。
そして、楽しみだと思った。ゾクゾクした。

それぞれのテーマについて私の考えを述べることは途方もないので、
ドラマWが始まる前にとりあえず、原作の全体を通しての感想を
ここには残しておきたい。

まだ読んでいない方は、ネタバレ注意です。


読み終えた時、
「愛」というキーワードが最も、
心の中に大きなインパクトをズシンと残した。
そして私の生涯で最も大好きなある本が心に浮かんだ。

はてしない物語

私がいかにこの本が大好きか、
どれだけこの物語が深くて感動するか。
それも語りたいところだが、
それはまた別の物語、いつかまた、別のときに話すことにしよう。

この物語は、母を亡くし、いじめられっ子で、本だけが喜びであるバスチアンという少年が、ファンタージェンという本の世界に入り込み、その世界の危機を救い、強くなって帰ってくる、という話。
なのだが、
ファンタージェンを救うことだけでなく、
実はこの「帰ってくる」ことの過程こそが最も大事な部分なのだ。
バスチアンはこの本の中の世界で「望む」ことによって先へと進み、元の世界へと帰る道を探していく。しかし良い望みも悪い望みも、望んでも望んでも、満たされない。そして帰りたい気持ちもなければ、帰り方もわからない。
バスチアンが帰るためには実は「本当の望み」が必要なのだ。
道中、バスチアンは不思議な「変わる家」にたどり着き、そこでお母さんのようなアイゥオーラという女性の愛情を一身に受ける。
そしてだんだんと、満たされ変わってゆく。
そのとき、バスチアンの心に「真の望み」が浮かぶ。
それは「自分も誰かを愛したい」という望み。
その望みだけを胸に、バスチアンは帰る道を探し、友に助けられ、人の世界に戻ってくる。
そうしてファンタージェンから戻ったバスチアンは、人間の世界をきっと豊かにしてくれる。そんな期待で人々は「はてしない物語」を閉じる。


北斗は、愛し愛されたことがなく育つ。感情に蓋をし自分の心さえもわからない子になってしまう。
そして里親に出会い、初めて愛され、愛し、人の温かさを知る。
失われた子供時代に戻ったように、愛情を一身に受け、初めて幸福を得る。
しかし里親の綾子は亡くなり、その拠り所をなくしてしまう。
北斗はこのとき、自分の心が、悲しみが、わからなかったのだ。
音楽を聴いて漸く泣けるというほどに、麻痺した心はそうまでも簡単に開かない。

そして、綾子が死ぬ前に北斗が尋ねた「復讐してほしい?」への綾子の頷き。
子の幸せを思う親なら、頷くはずがないだろう、子を殺人者にし人生をめちゃくちゃにしたい親なんていない、そんな当たり前の考え方が、愛情を受けずに育った北斗にはなかった。

それが悲惨な虐待の余波、だったのだ。


たったひとりの愛する人を失った北斗は、
そうして「復讐」という望みを叶えようとしてしまう。
それは本当の望みではないのに。
復讐したのは、
里親の綾子のためで、
綾子のしてほしいことをしただけなのだ。
そしてそれは
綾子を愛しているから。
これからも愛され続けたかったから。
ただ、愛されたかった。
その、自分の本当の心。
自分の真の望みを、
裁判で一枚一枚鎧を剥がして漸く
北斗は見つけられたのだと思った。

私にはこの裁判が北斗にとって、
「変わる家」だったのだと思う。
人の様々な思いを一身に感じ
麻痺して凝り固まった心が刺激され
自問自答して
漸く北斗の心はほぐれ、
自分の本当の望みを
心の叫びを
全身で
感じることができたのだと思う。

「ただ、愛されたかった、、」と
泣き崩れたその瞬間の描写に
私は涙を止めることができませんでした。
北斗の真の叫び。
悲痛なその思いに訴えかけられ、
心が痛くてたまらなかった。

無期懲役
死刑は賛否両論ある。
様々な意見がある。
無期懲役だから死刑より軽い、良い、とも言えないのではないだろうか。
特に北斗のような人間には。
読み終えた時私は、これはハッピーエンドなのだろうか、と問うた。
北斗のように、罪の重さを一所懸命に感じようとする受刑者には、もしかしたらより酷なのかもしれない、と。
それでも。
「生きる」ことを感じた北斗は、きっと、
この世界をよりよくする人になっていける。
そのための無期懲役なのだろう、
そう思った。


そしてもう一つ気になる描写。
これほどまでに辛く苦しい人間の世界のある側面をリアルに描いているのに、
最後の裁判の前日の夜、北斗が見たもの。
小さい頃の自分の分身のようなもの。
大事な場面の前にわざわざ入れられた不思議なこの描写。
一体何を表したいのだろうかと、
悩んだ。

ここで描きたかったのは、
魂の救済、なのではないだろうか。
そして、親の愛。それと、運命。

『北斗 ある殺人者の回心』というタイトル。
つまり主人公が裁判を経て「回心」することを示している。

回心とは、キリスト教用語で、罪が赦され心が大きく転換することである。
この罪とは北斗の犯した殺人の罪ではなく、キリスト教における人間が生まれながらにして持つ罪のことであると考える。
そして罪が赦されるというのは、魂が救済されることを意味する。

とすると、
両親から虐待を受け、里親を失い、2人の女性を殺め、裁判にかけられる。
この壮絶な人生は、北斗が回心する、つまり北斗の魂が救われるためのものだったのだ。
そしてそのためには、全てが無くてはならない出来事だったのかもしれないと考えざるを得ない。
それを人は運命と呼ぶのかもしれない。
両親の虐待さえも、傷つき歪んだ2人の愛情だった。その2人の傷をも北斗が一緒に背負い、救ったのではないだろうか。

実際、予定どおり生田だけを殺したのなら
きっと北斗は回心することはなく、
本当の心、感情、望みを、自ら感じることもなく、
彼の魂は傷ついたまま硬い殻に閉じ込められていただろう。


北斗はうまく愛されず育った。
しかし自分の中には愛があった。
だからこそ、それをどうしたらいいのかわからず
もがき苦しんだのだと思う。
でもきちんと愛を持っているから、
その自分のこころを感じた判決のあとには、
満たされ清々しい気持ちを感じたのではないかと思う。

北斗はそんなふうに、
普通の人間だ。
普通の人間なのに。
愛情を受けて育った人なら働くはずの理性は、
北斗にはわからなかった。
里親を失って感情が渦巻いて、自分の気持ちがわからなくて。
そうして殺人を犯してしまった。
それは決してあり得ないことではないのかもしれないと
悲しく、切なく思った。

だから私は。
そんな人がひとりでも道を一歩踏み外さないように。
手を差し伸べられる、善き人で在りたいと思った。


北斗を読み終わったときに、ふと浮かび、ぴったりだなと思ったお気に入りの洋楽を3曲、
載せておきます。
内2曲は難解なため和訳もしたのでぜひご参考までに。

 

Within -Daft Punk

youtu.be

There are so many things that I don't understand
There's a world within in me that I cannot explain
Many rooms to explore but the doors look the same
I am lost I can't even remember my name

I've been for sometime, looking for someone
I need to know now, please tell me who I am
I've been for sometime, looking for someone
I need to know now, please tell me who I am

 

Repeat

 

 

Flashlight - Hunter Hayes

youtu.be

I get lost sometimes, like everybody else,
人生に迷うこともある 誰もがそうであるように
Lose track of my lifelines, lose track of myself
頼りの道筋だとか
信じていたやり方さえもわからなくなって
And there's all kinds of reasons to be scared and run away
世の中には恐れたり逃げたりしてしまう事なんていくらでもあるのだから
It's a good time for sad times like heaven couldn't be
悲しむべき時なのかな
天国ではできないだろうから
Farther from the places, that heaven always finds me,
僕は神様さえ見つけられないような所にいるんだ
If nobody cares, tell me how is it I keep getting saved this way
誰も気にかけてくれていないとしたら
どうやっていつも僕はこんな状況から救われてきたんだろう、教えてくれ

*
It's a sunrise from a lonely night
孤独な夜が明けた日の出とか
Like a smile in the stranger's eyes
すれ違う人の目に映る笑顔みたいに
It's the moments that save my life,
僕の人生が救われる瞬間って
nobody knows about like flashlights
閃光みたいに一瞬で 他の誰も気づかないものなんだろう
there's just enough hope when it shines,
to go one scared step at a time
でもその光が差すその一瞬は
恐れていた一歩を踏み出すのに充分なくらい
希望に満ち溢れている
When the world's too dark I find, your flashlight, yeah
世界が真っ暗な時にこそ僕は
一瞬のその光を見つけられるんだ
*

I'm glad nobody's counting, and Lord I'm glad you don't keep score
誰も数えたり
成績を記録したりしなくて良かったよ
My prayers are all the same, as the ones I prayed before
信じる心は前と変わってはいない
Thank you, but forgive me, my rough around the edges heart is yours
ありがとう
そして
赦してくださいと
僕の崖っぷちな荒んだ心は貴方のものですと
In the moments where you'd swear I'm just screaming at the sky,
僕がただ空に向かって叫んだあの瞬間
It's the strangers' conversation or a friend just stopping by
それは
見知らぬ人通しの会話とか
もしくは
ただ友人が立ち止まっただけみたいな瞬間だったのに
and it's funny when I realise all the places that your miracles can hide
奇跡なんてどんな場所にだって隠れているのだと
気づいたあのとき
不思議だった

*Repeat*

Oh, who am I?
僕は一体何者なんだ
Dust and water,
Touched by the Divine
神に触れられ
塵と水からできただけのものなのに

Tell me who, who am I?
ねえ、教えてください
僕は何者なのでしょうか
you keep shining on me, shining on me, yeah
shining on me
なぜ僕を
光で照らし続けるのですか

*Repeat*

 

 

Beautiful Times -Owl City feat. Lindsey Stirling

youtu.be

A spark soaring down through the pouring rain
閃光は降りしきる雨を切り裂いて
And restoring life to the lighthouse
灯台に光を取り戻す
A slow motion wave on the ocean
Stirs my emotion up like a rain cloud
海の波はスローモーションで
僕の感情を雨雲みたいに引っ掻き回す

*
When did the sky turn black?
空はいつ真っ暗になった?
And when will the light come back?
また明るくなるのはいつなんだろう?
*

A cab driver turned to skydiver
Then to survivor,
Dying to breakdown
あるタクシーの運転手はスカイダイバーみたいに飛び込んで
全てを終わりにしようとした
でも、生き残った
A blood brother, surrogate mother,
血を分けた兄弟も代理母
Hugging each other, crying their eyes out
涙を流しながら抱き寄せ合ったんだ

*Repeat*

I'm ecstatic like a drug addict
僕はまるでヤク中みたいに
Locked in the attic
屋根裏に籠もって
Strung out and spellbound
おかしいくらいに考え続けた

**
I fought all through the night
一晩中闘いつづけたけれど
Oh, oh, but I made it alive
とにかく生き延びたんだと気付いた
The sun's starting to rise
日が昇りはじめている
Oh, oh, these are beautiful times
ああ、美しい瞬間とはこのことなのだ
This fight of my life is so hard,
So hard, so hard
人生は辛い闘いだけど
But I'm gonna survive
でも僕は生き抜いていくんだ
Oh, oh, these are beautiful times
人生には美しい瞬間もあるのだから
**

A bad feeling burned through the ceiling
黒い感情が天井のむこうに消えていった
Leaving my healing heart with a new scar
新たな傷痕を携え癒された僕の心を後にして
A dead fire rose and rose higher
Like a vampire, up from the graveyard
死の気をまとった赤い炎は吸血鬼みたいに
高く高く、墓地から燃え上がった

*Repeat*

We all suffer but we recover
人は皆、傷つきやすいけど
ちゃんと立ち直れるんだ
Just to discover life where we all are
自分の生きている人生を見つけるためにね

**Repeat**

My heart's burning bad
僕の心は悪を焼いた
And it's turning black
だから黒くなってしまった
But I'm learning how to be stronger
でもそれが強くなるってことなんだね
And sincerely, I love you dearly
心から愛しているよ
Oh, but I'm clearly destined to wonder
でも迷うこともある、それが人生というもの

 

 

あまりに色んなことが思い浮かぶ一冊だったので、
まとまりがなくごめんなさい。
加筆修正、すると思います。

 

あやな